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Picassoのお話し

税関職員のチームは7月、地中海に停泊したヨットから、黒い瞳に長い髪の女性が描かれたパブロ・ピカソの作品を押収した。スペイン政府はその絵を国家財産(a national treasure)とみなしており、特別仕立ての飛行機でマドリードに持ち帰った。

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 1906年作の「若い女の頭部」と題された肖像画だ。2600万ユーロ(2830万ドル)の値がついているが、現在、スペイン政府が首都の倉庫に保管している。しかし、スペインの著名な銀行家で大富豪のハイメ・ボティン氏(79)は、その絵は彼が40年前から所有してきた個人の資産であり、国家には関係ないことだとし、怒りをあらわにして返還を求めている。

 「オーナーである私は、自分の財産権を守ろうとしているだけだ」とボディン氏。「あれは私の絵なのだ。スペインの絵ではない。国家の財産ではない。だから、あの絵を私がどうしようと、私の勝手ではないか」

 この問題は、政府規制に対する芸術作品コレクター(収集家)の憤りという範疇(はんちゅう)を超え、スペインとフランスの両国内で法律論争を巻き起こしている。個人の資産と国家の文化遺産との関係の問題も浮かび上がらせた。

 今回のケースの核心には、現在、多くの国々が直面している問題がある。つまり、何をもって国家の財産とするのかという問題だ。そして、貴重な芸術作品について、個人の財産権をどれだけ規制することができるのかという問題だ。 

 それは、アイルランドやドイツなどでも重要な課題になっている。貴重な芸術作品を国内に留め置けるよう法律の改定を検討しているのだ。そうした作品が国外に持ち出され、国際マーケットで売却されるのを食い止めるためである。

 「今回のピカソ作品のケースは、作品が国外に輸出されてしまうのを国家が拒否できるのかどうかが問われている」とグイゼッペ・カラビ氏はいう。イタリアで、今回のピカソのケースと似たようなサルバドール・ダリの作品が絡む問題が起きており、カラビ氏は作品のオーナー側の弁護士をしている。

 彼は「ある作品が文化財だということになれば、市場価値は崩れてしまう」と指摘する。

 もう一つ、今回のピカソ作品のケースにはやっかいな側面がある。当の作品とスペインとの間に何らかの芸術上の関係があるのかどうかという問題が問われているのだ。

 今回の件は、ボティン氏が5月にピカソの作品を国外に売ろうとしたところ、スペイン政府がストップをかけたことでややこしい事態に発展した。ボティン氏はその絵をヨットで地中海にあるフランスのコルシカ島に運び出したのだが、そこからスイスに空輸しようとしていたという。ところが、絵はフランスの税関当局を通じて押収されてしまったのだ。

 ボティン氏はスペインの名門商業銀行「バンキンター(Bankinter)」の大株主で、マドリードにある同行の本店ビルでニューヨーク・タイムズのインタビューに応えてくれた。彼は「スペイン政府の言い分が通るはずはない。そもそも政府には所有権がないのだから」と主張し、こう続ける。「政府がやっていることは、突然、私の家に踏み込んできて、『お前の持っている絵が気に入ったので、欲しい』と言い張っているようなものではないか」と。

 一方、スペイン文化省の広報担当によると、政府は、ボティン氏の主張に対する法廷の判断を待ってから対応するという。

 スペイン政府の立場は、こうだ。当の絵は、ピカソがスペイン側ピレネー地方の村ゴソルで1906年の夏を過ごした時に制作した希少な絵画であり、「国家財産」であるから、スペイン国内に留め置くべきだというものだ。政府側の専門家たちは「この種のピカソ作品は他にはスペイン国内に残されていない」と指摘し、「ピカソの、いわゆる『ゴソル時代』に制作された数少ない作品の一つである」と結論づけている。

 ところが、ピカソの子孫や伝記作家たちの間からは、その見解に異議が出ている。ピカソの娘マヤ・ウィドメーアー・ピカソ氏や彼女のフランス人の息子オリビエ・ピカソ氏によると、権威あるピカソの作品カタログや伝記類は、肖像画「若い女の頭部」はピカソが1904年から09年にかけて制作に取り組んだ仏パリ・モンマルトルのアトリエ「洗濯船(Le Bateau―Lavioir)」で描いた作品であることを示唆している。

 長年にわたってピカソの伝記を書いてきた作家ジョン・リチャードソン氏もまた、当の絵がゴソル時代の作品とは考えられないとしている。

 ボティン氏は、そのピカソ作品を1977年にロンドンで購入した。そのころ、コローやシスレー、ターナーといった巨匠の絵画も収集していた。彼は2012年のスペイン経済危機の際、そのピカソの絵を売却することにしたという。当時、芸術作品の値は国際マーケットで高騰していた。そこで同年、より高い値がつきそうなロンドンの市場に出すため、世界的な競売会社クリスティーズのスペイン社を通じてピカソ作品の輸出許可をスペイン政府当局に申請したが、申請が受け入れられなかった。以来、ボティン氏と政府との反目が続いてきたのである。

 ボティン氏は、ピカソ作品の国外持ち出しが禁じられ、押収された件で、スペイン政府を相手に法廷闘争を挑んでいる。9月にはパリの法廷にも訴え出ている。その一方で、ボディン氏には密輸の疑いがかけられている。もっとも、弁護士によると、まだ告訴されたわけではないという。

 「私にこんな仕打ちをしたヤツには、きっちりとケリをつけてやるつもりだ」。ボティン氏はかすれた声で、そう話していた。

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