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スペインの話題 ユーロ危機を緊縮財政で ~NYタイムズから~

ユーロ危機を緊縮財政で乗り切ろうとしているスペイン

NYタイムズ 世界の話題

 政府の緊縮策に反発して、失業に苦しむ若者たちが首都マドリードの広場を占拠し始めたのは2011年5月だった。以来、この「怒れる者たち」の占拠行動は財政危機にある欧州各国の反緊縮政策の中核となってきた。ニューヨークで同年9月から繰り広げられたあの「ウォール街を占拠せよ」運動の先駆でもあった。

そのスペインのデモ活動に参加したら「最高60万ユーロ(1ユーロ135円として8100万円)の罰金」という新しい治安法が7月1日施行された。財政危機、記録的な失業率(訳注:2015年第1四半期でも25歳以下の失業率は51・3%)。デモに超高額な罰金を科すというマリアーノ・ラホイ首相の保守派政権の新手法に、人権活動家たちはカンカンに怒っている。

 この治安法は「ギャグ法」(言論圧迫法)とまで批判されている。ラホイ率いる国民党が多数派を占める国会で今年3月、可決された。11月には総選挙が予定されているが、国民党は相当厳しい戦いを強いられるだろう。

 その新法だが、デモ参加者への罰金のほか、国会その他重要な施設周辺での集会を禁止している。国会議事堂を取り巻いた12年の抗議デモで数十人の負傷者が出たが、こうした事態への対策として盛り込まれた。

 新法はまた、アマチュアによるビデオ撮影も禁止した。米国ではデモ参加者を警官が殴りかかる証拠として、民間人がビデオ撮影することが増えている。スペインでも5月、バスク地方で警官がデモ参加者を殴っているのが撮影された。

さらに、重い罰金を違反者に科している。

 警官を侮辱したら600ユーロ(約8万1千円)。

警官に不利な写真を拡散させたら最高3万ユーロ(約405万円)

 国会議事堂その他機密を要する施設周辺で無許可の抗議行動に参加したら60万ユーロ(8100万円)

 非政府組織(NGO)アムネスティ・インターナショナルは昨年、市民が警官の行動を撮影することを禁じる新法を批判した報告書を出した。アムネスティは「こうした撮影は、警察当局が警官の行為をどう把握するかという点で重要な役割を果たしている」と主張している。

 人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチの上級調査員ジュディス・サンダーランドは、新法について「スペインにおける平和的な集会と表現の自由に対する直接的な脅威だ」と評している。さらに「権力側が権力を乱用した際、それを人びとが抗議したり、時にはののしったりして批判するために街頭に出て非暴力の抗議をすることは民主主義に不可欠なことだ」と表明した。

 6月30日、これまで抗議をしてきた何人かが新法の効力を試すべく行動に出た。マドリードでは国際環境NGOグリーンピースの活動家が建設用クレーンのてっぺんに上って、新法への抗議の合図をして見せた。むろん新法では、許可なく建物や記念碑によじ登ることは禁じている。北部ヒホンの町では、主要道路をタイヤで妨害してみせた。

 スペイン最大の警察組合は、新法に対する批判に関し、いくつかの点で批判に同調している。組合スポークスマンのハビエル・エステベス・デカセレスは、同法には確かに前向きな面がいくつかあると認めながらも、「現場の警官にとっては不十分だ。とくに、ほとんどの警官は新法をどう適用するか必要な訓練をうけていない」と語った。

 警察組合が出した声明には、こういう一文もあった。「われわれは社会的、政治的、経済的な変革期に生きている。その中で、法案段階で必要な政治的、社会的合意がないまま成立したのはベストタイミングではない」

 実際、4年前にマドリード中心街のプエルタ・デル・ソル広場を占拠した抗議活動家たちの一部が、今やラホイの国民党の対抗勢力にのし上がった左派新党ポデモスの中核になっているのだ。

 そのポデモスの党首パブロ・イグレシアスは昨年12月、欧州評議会に書簡を送り、新法がEU(欧州連合)の基本権憲章に違反しているのではないか、と調査を要求した。平和的集会と結社の自由への権利に関する国連特別報告官マイナ・キアリは新法を批判している。

 スペイン国内では、新法案が国会で審議されていた昨年から反法案デモが起き、参加者たちは口にテープを貼って抗議を表明したり、新法を皮肉ったりして反発した。

 今年4月には「われわれは犯罪者じゃない(No Somos Delito)」と呼ぶ活動グループが国会議事堂の玄関口にレーザー写真で抗議者たちの姿を投影するという斬新な抗議活動に出た。

 こうした抗議や批判に対し、政府は繰り返し新法を擁護し、人権や民主的権利に違反していない、と強調している。

 6月30日、スペイン内相ホルヘ・フェルナンデス・ディアスは、新法は「暴力的な行為を懸念してのことにすぎない」と言った。また、ラホイ首相は、新法が基本的な諸権利を制限するというのは誇張だとし、「基本的諸権利の自由な行使を実践するための改正」が狙いなのだと語った。

 施行された新法は、ラホイ政権が当初提案した原案を水で薄めたものになった。原案では、警察が抗議デモを排除する際、民間の安全保障会社が警察側に加担する権限を持つといった項目まであった。

 それでも、新しい治安法はスペイン国内のさまざまな抗議活動や庶民の行動を罰則で規制しようともくろんでいる。

 だが、いくつかの抗議行動は財政危機下のスペインで起きた反政府緊縮策運動の要であり続ける。その一つに、裁判所あるいは銀行の要求によって家からの立ち退きを余儀なくされているケースを阻止する活動がある。反立ち退き活動を率先して続けてきたアダ・コラウ(訳注:冒頭の「怒れる者たち」の活発なメンバーの一人でもあった)は、最近行われたバルセロナ市長選で(初の女性)市長に選ばれた。

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